住宅ローンの基礎知識住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

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住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

住宅ローンの繰り上げ返済は本当にするべき?住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

住宅ローンを返済するあいだ、繰り上げ返済をすべきかどうかで悩む方は多いでしょう。
「定年までに住宅ローンを完済したい」「借金は早めになくしたい」など、繰り上げ返済をする動機は様々。
一般的には、住宅ローンの繰り上げ返済はしたほうがお得と言われています。しかし多くのメリットがある一方で、無視することのできないデメリットがあることも事実。

そこで本特集では、「繰り上げ返済のメリットとデメリット」をテーマに、住宅ローンを繰り上げ返済する前に知っておきたい繰り上げ返済の知識や、住宅ローン控除との関係などを解説します。

住宅ローンを繰り上げ返済するメリット住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

それでは、まず最初に繰り上げ返済のメリットから見てみましょう。

住宅ローン繰り上げ返済のメリット その1
将来支払う利息まで削減できる

住宅ローンを繰り上げ返済するもっとも大きなメリットは、本来支払う予定だった利息が、繰り上げ返済によって不要になり、そのぶんの返済額を圧縮できる点です。

たとえば、金利1%で30年間の住宅ローンを借りている方が、100万円の繰り上げ返済をしたケースで見てみましょう。
もしも、繰り上げ返済をしなければ、100万円×1%の金利を払い続ける予定だったと考えれば、繰り上げ返済には、100万円×1%を30年ものの定期預金に預けるのと同じ金銭的メリットがあると言えるでしょう。

繰り上げ返済をしない場合 繰り上げ返済をした場合
総返済額 34,736,908円 34,402,465円
-334,443円
繰り上げ金額 1,016,431円
短縮された期間 1年2ヶ月

借入額:3,000万円、金利:固定金利1.0%、返済期間:30年、繰り上げ返済:借入から1年後に100万円、返済方法:期間短縮型 ※融資手数料・保証料・繰り上げ返済手数料は考慮せず

住宅ローン繰り上げ返済のメリット その2
返済期間を短縮できる or 月々の返済額を軽減できる

住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

繰り上げ返済では、ほとんどの金融機関で「期間短縮型」か「返済額軽減型」かを選ぶことができます。
利息の軽減効果が大きいのは期間短縮型のほうですが、返済額軽減型は、毎月の支出を抑えることができるため、子どもの教育費がアップする前に繰り上げ返済を行い、月々の返済額を軽減しておく、といった使い方も可能です。
住宅ローン返済が家計の負担になっている場合は、返済額軽減型を活用すると良いでしょう。

一方、毎月の家計や預貯金に余裕がある場合は、期間短縮型を選んだほうが支払い利息を圧縮し、住宅ローンの早期返済に近づくことができます。
家計の余剰資金で繰り上げ返済をする場合は、期間短縮型がおすすめです。

住宅ローン繰り上げ返済のメリット その3
金利上昇のリスクに備えられる

繰り上げ返済のメリットとして意外に知られていないのが、金利の変動リスクをコントロールする機能です。
変動金利や期間固定金利で住宅ローンを借り入れている場合、変動金利は半年に一度、期間固定金利は、金利固定期間の終了後に、適用金利の見直しが行われ、そのときの経済状況によっては金利が上昇する可能性があります。

繰り上げ返済をすると、このような金利上昇の影響を少なくすることが可能です。
たとえば、「期間短縮型」を選んだ場合は、返済期間が短くなることで思いがけない金利上昇に遭遇する確率を減らしたり、上昇した住宅ローン金利が適用される期間を短くできるなどの対策が可能になります。

一方、「返済額軽減型」を選んだ場合は、月々の家計負担を減らせるため、金利の変動による返済額の増加が起きた場合にも、ある程度、上昇幅を少なくすることができます。

住宅ローンを繰り上げ返済するデメリット住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

その一方で、繰り上げ返済のデメリットには、どのようなものがあるでしょうか?

住宅ローン繰り上げ返済のデメリット その1
家計のキャッシュがなくなる

住宅ローンを繰り上げ返済するもっとも大きなデメリットは、家計の貯蓄が少なくなる点です。
「住宅ローンを一刻も早く完済したい」と、定期預金などを切り崩して繰り上げ返済を頑張りすぎると、自由に引き出せる現金が少なくなり、急な出費への備えが弱くなりがち。

一般的には、万一の場合の生活防衛の観点から、収入がなくなった場合も半年から一年ほど生活できるくらいの現金を貯蓄等で持っておくことが安心、と言われています。
「冠婚葬祭」「家電や車の買い替え」「子どもの教育費」「リフォーム」「転職」「病気やケガ」など、急な出費や収入減に備えて一定の現金を確保したうえで、繰り上げ返済は余裕資金で行う方法がおすすめです。

なお、住宅ローンの中には、繰り上げ返済によって一時的に返済額を減らすことができる商品も存在します。
返済額軽減型を選ぶケースとは異なり、家計に余裕が戻った時点で返済を元通りにすることもできるため、このような住宅ローンを活用するのも1つの方法でしょう。

SBI新生銀行 パワースマート住宅ローン

SBI新生銀行 パワースマート住宅ローン

実店舗を持ちながら、ネット銀行と同等の低金利を実現している住宅ローン。
保証料・団信保険料・一部繰り上げ返済手数料は無料。追加プランの「安心パック」を申し込むと「団信介護保険」が無料で付帯し、繰り上げ返済で短縮した期間のぶん、元本部分の返済を休憩できる「コントロール返済」が利用可能となる。

SBI新生銀行 パワースマート住宅ローン

住宅ローン繰り上げ返済のデメリット その2
未来や現在への投資資金がなくなる

繰り上げ返済によって家計の現金が少なくなることは、いざというときの生活予備資金だけでなく、未来や現在への投資資金が少なくなるというデメリットもあります。

たとえば、1%の金利で3,000万円借り入れている住宅ローンを、期間短縮型で100万円繰り上げ返済すると、返済期間を1年2か月短縮し、総返済額を33万円減額することができます。
しかし、同じ100万円を、株式やNISA、iDeCoなどに投資することで、将来の資産形成に活用する方法もあります。投資の期待利回りは2~4%程度(金融商品により異なる)と言われており、長期分散投資を心がけることで、リスクをコントロールすることも可能です。
また、同じ100万円をスキルアップのための資格取得や学び直しに使う方法もあるでしょう。

住宅ローンの返済中は、つい目先の借金を完済することを優先させがちですが、今と将来のために、どのようなお金の使い方が有効なのかを、ご自身やご家族のライフプランも含めて考える視点も大切です。

住宅ローン繰り上げ返済のデメリット その3
住宅ローン控除の対象外になるケースや減税効果が少なくなるケースがある

住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

繰り上げ返済のデメリットとして注意しておきたいのが、住宅ローン控除です。
住宅借入金等特別控除(通称:住宅ローン控除)は、返済期間10年以上の住宅ローンが対象となっているため、繰り上げ返済(期間短縮型)を利用することで、返済期間が10年未満となった場合、適用対象外となってしまいます。

また、住宅ローン控除とは、住宅ローン残高の1%の税金を10年間減額する制度であり、残高が多いほど、税金の減額効果は大きくなります。
繰り上げ返済をすることで住宅ローン残高が減ると、そのぶん、住宅ローン控除の減税効果が落ちてしまう場合も
そのため、借り入れ当初に繰り上げ返済をするのではなく、10年後に(10年間で行う予定だった繰り上げ返済を)まとめて実行するほうが、利息軽減効果と減税効果を足したトータルのお得度が高いケースがあります。
どちらのほうがお得になるかは、借り入れている住宅ローンの金利によって決まります
住宅ローン控除で減税される1%よりも、住宅ローン金利のほうが高い場合は、住宅ローン控除による減税効果よりも繰り上げ返済による利息軽減効果のほうが高くなるため、借り入れ当初から繰り上げ返済を行ったほうが有利です。
反対に、住宅ローン金利が1%よりも低い場合は、10年間住宅ローン控除の適用を受けたあとで繰り上げ返済をするほうがお得度は高くなります

ただし、住宅ローン控除の減税効果を100%受けられない場合(借入額が多い場合、もしくは所得額が低い場合)は、住宅ローンの金利が1%未満であっても、借り入れ直後から繰り上げ返済をしたほうが金銭的なメリットが大きいケースがあります。

このように、住宅ローン控除を受けているときは、繰り上げ返済による返済期間の短縮と、1%の減税効果に注意しましょう。

コラム繰り上げ返済には住宅を売却する際のメリット・デメリットも

住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

住宅ローンの返済中に自宅を売却するのは、やや特殊なケースに該当しますが、繰り上げ返済には家を売る際のメリット・デメリットもあります。

住宅を売却するときに住宅ローンが残っており、その残高が住宅の売却価額よりも大きいことを俗に「オーバーローン」と言います。家を売ったあとも住宅ローンが残るため、売却後もローンの返済を続ける必要があります。

繰り上げ返済のメリットは、このオーバーローンが起こりにくくなる点にあります。繰り上げ返済によって住宅ローン残高が少なくなっていれば、住宅の売却価額が住宅ローン残高を上回る確率は高まるでしょう。
万一、住宅を売却する必要が出てきた場合にも、家を売った資金で住宅ローンを完済することができます。

一方、デメリットとしては、オーバーローンによる税金の還付が受けられなくなる点があげられます。住宅売却時に住宅ローンが残った場合、確定申告をすることで、給与などの所得から天引きされた所得税が還付されます(居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)。
通常、不動産の売却額(譲渡所得)には税金が発生しますが、住宅を売却したことで反対に損失(オーバーローン)が発生した場合には、これを給与などの所得と相殺(損益通算)して税金の還付を受けることができるのです。
特に所得が高く、税額が高い場合には、このような不動産売却による減税効果も見逃せないでしょう。

繰り上げ返済の住宅売却時のメリット&デメリット

メリット……オーバーローンが起こりにくい。住宅を資産として計上できる
デメリット……オーバーローンによる所得税還付は受けられない

繰り上げ返済のメリットとデメリットを理解して住宅ローンを賢く返済しよう!住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

住宅ローンを繰り上げ返済するメリットとデメリット

昔から、住宅ローンの繰り上げ返済は「借り入れ直後から積極的に行うのが王道」と言われてきました。
事実、繰り上げ返済による利息の軽減効果や、金利上昇リスク対策は有効度が高く、基本的には余裕資金で繰り上げ返済を行っていくことが、賢い住宅ローンの返し方と言えるでしょう。

ただし近年は、住宅ローン控除の存在や変動金利の低金利化などもあいまって、すべてのケースで「繰り上げ返済がお得」とは言い切れない状況も増えています。

繰り上げ返済は、借金の返済というだけではなく、「どのようにお金を活かすか」というお金の使い方の問題でもあります。
今回ご紹介した繰り上げ返済のメリット・デメリットも参考に、ぜひご自身や家計に最適なタイミングで繰り上げ返済に取り組みましょう!

著者 長尾 尚子

フリーランスライター。得意分野は、育児・教育、住宅ローン、保険、金融、エンタメ等、幅広い。子ども3人を育児中のママでもある。
【資格】消費生活アドバイザー、FP2級